本文記事2002年

 



「ニューライフ」2002年12月号に掲載された懇談記事を転載いたします。

環境と消費者に優しいごみ袋を考える

岡山大学大学院
自然科学研究科教授
前廃棄物学会会長
工学博士 田中 勝 氏

大阪市環境事業局 総務部長
橋下 勝彦 氏

指定ごみ袋を考える会会長
株式会社ケミカルジャパン代表
武田 一弘 氏

指定ごみ袋を考える会事務局長
日本サニパック販売支援室長
小塩 勝男 氏

 エコロジー社会と呼ばれる現代、環境と人に優しいとされるエコグッズも随分普及してまいりました。また人びとの環境問題に対する意識も以前と比べて随分、高まってきている反面、私たちの身近なところでまだまだ未解決の環境問題が犇めいております。そのような中で今回は環境と消費者に優しいごみ袋について考えてみました。

ごみ袋問題を斬る!
指定ごみ袋を考える会

武田 指定ごみ袋を考える会は、普段はライバル同士として火花を散らしているごみ袋の有力メーカーたちが指定ごみ袋の問題を考え、市民の皆さんや行政に対して問題意識を高め、指定ごみ袋廃止のために啓発活動などを行っております。

小塩 1993年、住民の間で、そしてごみ袋メーカーの間で、環境や人に対するメリットは本当にあるのだろうか、という疑問が起る中、東京都が炭酸カルシウム入り指定ごみ袋を導入することとなり大変な騒ぎとなりました。この事件をきっかけに、1995年秋、指定ごみ袋を考える会が結成されました。今秋で発足して7年目です。
 ごみ袋のプロフェッショナルとしての立場から、根本的に炭酸カルシウム入りのごみ袋、指定ごみ袋は本当に効果があるのか、という疑問等を解決すべく活動してまいりました。しかし実際には指定ごみ袋を考える会としてはご理解頂きましてもその考えを実行に移す、つまり指定ごみ袋制度や炭酸カルシウム入りごみ袋を廃止するという結論を出すまでにはもう少し時間がかかりそうです。

田中 現代では、ごみ袋の問題を含め誤解、非常識がまかり通っております。貴会のような活動を大いに支援したいと思います。

小塩 ありがとうございます。ところで先生は、人と環境に優しいごみ処理の実現のためには行政または指定ごみ袋を考える会の活動として何が必要だとお考えでしょうか。

田中 そうですね、ごみ袋を変えるなど色いろな対策を練っていくときに目的を明確にすることやデータに基づく評価によって対策を考えることが最も大切であると思います。
 例えば、指定ごみ袋を使用した場合の効果、使用していない場合との比較をきっちりと評価し、これこれの理由で、指定ごみ袋使用をお願いしますという具合に住民に分かりやすく説明する必要があります。
 1993年に東京で起きた炭酸カルシウム入りごみ袋導入問題、そして既存するごみ処理問題はこの点がクリアでないことが発端となっております。また、これらの方針が効果的でないということが後に発覚して問題となり今日に至っております。
 現実に、指定ごみ袋や炭酸カルシウム入りごみ袋導入が進む中でもこれらの新しい方針に対する効果などが裏付けられたデータは住民が納得するようなレベルには追いついておりません。この現状に対し、我われのような大学での研究を急ぐ必要があります。
 今後の課題として、私は”3つの評価“と呼んでおりますが、まず”資源の保全に貢献しているか“そして”環境に対し良い影響を与えるか“さらに”消費者にとって費用負担は少なくなるのか“という観点からきちんと評価していくことが大切であると思います。

行政ニモ負ケズ、
似非エコロジストニモ負ケズ

 また、本当に効果が出ていなかった場合、もう一度始めからやり直すという勇気も必要です。

橋下 なるほど。しかし、役人というのは頭が堅いですから1度決めたことに対して色いろな理由を付けて守ろうとする傾向があります。

田中 実際に行政の内部から方針を変えて行くことは本当に難しいでしょうね。これはその方針を決めた人を非難するような感じになりますし、責任問題ともなる恐れがありますからね。

橋下 しかしそこを大胆に変えていくことも我われの課題です。

武田 私どもも、この行政の堅い壁に何度もぶつかっております。
 例えば、ある指定袋を使用する自治体の役所を訪問し、理由を聞くと「自分の町の名前が袋にプリントされているのが見た目に美しい」「上の者が決めたので」などイメージ先行の曖昧な答えが返ってくることも度たびありました。しかし、私どもの意見を申し上げますと、「それは貴会の考え方であって業界全体としての意見ではないでしょう」と言われてしまいます。

小塩 この点を解決するためにもより詳しい科学的データが必要です。
 実は、こういう辻褄の合わないごみ袋問題が横行しているのには幾つか理由があり、この問題は行政だけでなくメーカー側にも責任があります。
 近年海外メーカーのごみ袋がどんどんと輸入され価格が益ます低下しております。日本製はコストでは勝てませんから、商品に何か特徴を付けて販売しようという動きが出てまいりました。そこで登場したのが炭酸カルシウム入りごみ袋。今では結び目付きのものや無意味な色とりどりの文字が入ったものまで何でもござれです。従来のごみ袋では海外商品に負けてしまうというプレッシャーと行政に認められて指定ごみ袋として販売できればビジネスチャンスとして大儲けできるということの狭間で次つぎに似非エコロジー対応ごみ袋が出てくるようになったというわけです。

武田 一度行政に認められると、それだけで1年から数年間は需要が保証されるわけですから、似非エコロジスト企業が次々と現れ、「炭酸カルシウムは良いですよ、これはダイオキシン抑制に効果的ですよ、変わった色を付けましょう…」などと必死で売り込んでおります。この営業活動で指定ごみ袋制度をビジネスチャンスとして掴み成功している企業も沢山存在します。
 しかし、我われとしましては、そのような環境にも人にも良くない偽者を許すわけにはまいりません。今後も戦っていくつもりです。

大阪市の例から学ぶ
理想的なごみ処理方法

 ところで、大阪市では指定ごみ袋でなく黒のごみ袋を始めスーパーの袋など自由なごみ処理方法をされておりますね。

橋下 そうですね、大阪には3500キロカロリー分焼却できる優れた焼却炉があります。ですから細かい分別なしに処理できるということです。ところが例えば東京都の場合、2千数百キロカロリーしか焼却できませんので細かい分別をしなければ焼却炉が耐えられないんです。このような背景から指定ごみ袋を使用されているようです。
 また、黒のごみ袋は住民の方からも大変好評です。経済的であり、中身が見えないのでプライバシーが守られる点、また指定ごみ袋の場合と違いどこでも手に入るので便利などという点が現代の人々のライフスタイルにも合っているのですね。

小塩 昔はこの黒や青色のごみ袋が主流でした。しかし分別がどんどんと増えて今では6種類程にも分別されるようになりました。この分別によってメーカーはごみ袋の色を変えたりパッケージを変えたりしなければなりませんが、これは本当に無駄なことです。以前使用されていたごみ袋の在庫も溜まる一方です。そろそろ改革案を検討する時期になりましたね。

田中 はい。しかし重要なことは大阪市のようにそれぞれの自治体が自分の自治体にとって最もベストな方法を考え、実行するということです。
 特に東京都23区の自治体は日本全国に大変大きな影響があります。この自治体に変化が起こるとそれがテレビや新聞で紹介されますよね。そしてそれを見た地方自治体は、東京の方針に我われも見習わなくてはならないと思ってしまう傾向があります。
 例えば東京都でプラスチックの分別回収を始めて以来プラスチックを燃やすとダイオキシンなどの猛毒を出すという危害感やプラスチックは燃えないという概念が日本全住民の間で植え付けられるようになりました。
 大阪市ではしっかりとした考えにより熱処理をしエネルギーを回収しておられます。私は汚れたプラスチックは物資回収ではなく、このようなきっちりとしたエネルギー回収こそが理想的なリサイクルであると思います。

橋下 ありがとうございます。そうですね、確かに全て分別して資源化するほうが良いと盲目的に思っておられる方が非常に多いようです。

田中 特にプラスチックを分けて出せば燃焼ガスがきれいになると勝手に思いがちです。しかし実際に分別している自治体とそうでない自治体の排ガス中のダイオキシン濃度を比べると混合収集の方がむしろ高温で焼却しているので低いというデータも出ております。ですから、汚れたプラスチックを回収してそれを分別し、効率の悪い運び方をし、破砕、再生して物質回収してみました、などといわれても全く誉める気になりませんね。

橋下 そうですね。効率も考えないと結局リサイクルもエネルギーの無駄使いとなってしまいます。
 大阪市の前島焼却工場ではこの工場で使う電力は自家消費しており、それに加えて一ヵ月約1億円分の電力を稼いでおります。我われとしましてはこのようにエネルギー回収が大変有効に機能していると思っております。しかし市民側ではまだ分別した方が良いという考えを持った方も実際にはおられまして、我われはこの方がたにもデータに基づき詳しく分かりやすく説明することが必要であると思っております。

武田 黒いごみ袋と申しますのは、成熟した市場です。商品価格や品質の競争が激しいこの業界では袋の強度や使いやすさの点ではより優れた商品が充実してます。この点でも住民のニーズを満たし、大変素晴らしいと思います。

小塩 環境と人に優れた点をデータを基に分かりやすく住民に説明し、これまでの複雑化したごみ処理に対する誤解を解くことが必要ですね。

塵も積もれば山となる

田中 ごみ袋問題はまた、「塵も積もれば山となる」という諺の如く微妙な変化が大きな差異をもたらすということも大切なポイントです。
 例えばごみ袋の種類の違いによる1枚あたりのごみ袋の重さはほんの数cです。しかし、市・国という単位で考えますとその差異は1年間で数百dものごみと化してしまいます。また、料金的にも10円20円アップするということはそれだけを見れば非常に小さい額ですが、市民全体を考えるとそれは何千万円となるでしょう。
 これらのことを踏まえた上で、なるべくエネルギーがかからず1人1人の費用負担が少なくなるように最大限の努力をしていくことが不可欠です。
 またこれに関するデータを企業や大学などデータの取りやすい立場の人が提供していくこともこれからのごみ問題解決のキーとなるでしょう。

武田 今日の懇談を通じて指定ごみ袋問題解決へさらに前進できたと思います。先生のアドバイスを基により具体的なデータ作りをこれからさらに積極的に行っていきたいと思います。何しろ本当に励まされました。

田中 現代は良いものを育てようという社会です。貴会の努力により住民の皆さんや行政にも理想的なごみ袋についてご理解頂く日は近い将来やってくるのではないでしょうか。

<問い合わせ先>
指定ごみ袋を考える会
〒151−0072
住所 東京都渋谷区幡ヶ谷1−23−20
日本サニパック内指定ごみ袋を考える会事務局
TEL03−5465−2124
FAX03−3469−5024
E−MAIL koshio@gomibukuronews.com
http://www.gomibukuronews.com


 
桶川市・フェロキサイドごみ袋独占問題
(毎日新聞報道要約)

全国には今回報道されたような問題を抱える指定袋制度を有する自治体が多数存在します。単純に活性フェロキサイドについてだけ見ても25市154町村で採用実績があり、その大半が大倉工業の一社独占体制となっている模様です。自らが暮らす都市の袋単価が常識的なレベル(市販品と同等)か、関係する行政マン、議員、市民はチェックしてみる必要がありそうです。そして特殊な材質には要注意です。行政担当者の方には、その袋が決まると自分の懐が潤う関係者の説明だけでなく、科学的識見をもつ中立的第三者の意見を仰ぐことを強くお勧めします。(特殊ごみ袋のダイオキシン抑制効果を是認する大学教授・研究員等がおられましたら、当会事務局にぜひ御一報ください。ぜひ御所見を拝聴してみたいと考えます)

続報10 (10月22日)
市はごみ袋の認定基準を全面的に見直した「新基準」を報告した。大倉工業の特許製品とは別のダイオキシン抑制剤を使用した製品が認められ、価格競争の妨げが解消された。

続報9 (10月2日)
住民への周知が遅れたまま、事実上の見切り発車。市は指定袋に限らずすべて回収する措置を取った。

続報8 (9月20日)
市長、近く製造認定の基準を見直す考え。

続報7 (9月19日)
全8種セット2900枚の一括購入、現金払いが条件。商店会が反発、指定袋制廃止を求めるポスターを作成。

続報6 (9月18日)
「現行のまま来月から」岩崎市長表明。市民の怒りは強く、傍聴席は満員。「不正な仕組み。市民に負担かけるのか」

続報5 (9月14日)
ネットで検索、そのまま決定。「認識が甘かった」。フェロキサイドの効果については賛否両論で「効果はない」とする文献も多く検索されるが、市は「(悪い評価のものまでは)検討していなかった」。

続報4 (9月13日)
大倉工業社長「価格操作はしていない」

続報3 (9月13日)
大倉工業の代理店「日東興産」が市の基準決定に関与。大島助役「1社が仕切りやすい状況になっている」

続報2 (9月12日)
大倉工業が全商品の販売ルートを握る仕組み。市民や小売店は「価格が高すぎる」「特許製品のフェロキサイドを採用する意味があるのか」と反発。

第一報 (9月12日)
桶川市で日本一高いごみ袋。

<<リンク>>桶川市ごみ袋問題レポートへ
桶川市の北村あやこ議員の市議会報告のなかの1本。一社独占で「日本一高い」といわれて勃発した活性フェロキサイド問題の詳細な事例報告。

<<リンク>>「桶川市ゴミ袋問題を考える会」
「桶川市ゴミ袋問題を考える会」が運営しているウェブサイト。豊富な情報。



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