1.ただの俗説にすぎない「効能説」
2.効能説を覆す
3.炭カル袋の持つ問題点
4.炭カル袋の広まった背景事情
1.ただの俗説にすぎない「効能説」

原材料のポリエチレンに炭酸カルシウムを10%〜40%程度混入させたいわゆる炭カル袋には、「炉にやさしい」効果があると俗に言われ、多くの人々がそのことを信じています。自治体の中にもその説明を信頼して、指定袋の要件に「炭カル混入」を加えるところが多く見られます。
しかし、そのように俗に言われ、また信じられているような効果は、実は虚構なのです。炭カル効能説は、化学方面の専門家にしてみれば鼻で笑って済ませられる程度の初歩的な“まやかし”にすぎません。それをこれから解説していきます。
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2.効能説を覆す
炭カル袋に関して言われている効果には次のようなものがあります。
・「発熱量が低いから炉を傷めない」
・「穏やかに燃え、燃えだれも少ない」
・「有毒ガスを発生しない」
・「クリンカの生成を抑える」
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いずれも、ごみ問題に関心を寄せている人が聞いたら、さっそく今日からでもそちらへ切り替えたくなるような誘い文句です。では、それぞれの効果について吟味していきましょう。
(1)
「発熱量が低いから炉を傷めない」は本当か?
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「発熱量が低い」という理屈をこれから紹介します。「炭カル」とは何かといえば、石灰石を細かく砕いて粉末状にし、不純物を蒸発させるためにキルンで焼きを入れた、ただの石の粉です。一度焼いた石ですから、当然それをまた燃やしたとしてもカロリーを発生しません。それをポリエチレン樹脂に練り込み、フィルムに加工したものが炭カル袋なのです。
たとえば、炭カルを40%含んだポリ袋と完全にポリエチレンだけでできた純粋ポリ袋との間で「単位重量当たり発熱量」を比較してみますと、炭カル袋の方が40%低いという結果になります。炭カル袋の検体が1グラムあれば、そのうち0.4グラムは石なのですから、100%ポリエチレンで構成された検体と比べれば燃焼時の発熱量が低いのは当たり前のことです。このことをもって炭カル袋は通常のポリ袋よりも有利だと結論を導いているのです。
しかしよく考えると、この理屈には「強度」の概念が抜けていることに気がつきます。袋にとっては、その機能を担保するだけのフィルム強度があるかどうかが極めて重要です。炭カル低発熱量説は、そのことを無視しているのです。
同じ厚さのフィルム同士で比べれば、炭カル入りの方は余計な石が混合しているわけですから、その分強度が落ちることは間違いありません。しかも純粋なポリ袋と比べると、強度は炭カルの混入比率より以上に悪化する傾向があることが確認されています。
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したがって、仮に炭カルを40%含んだ厚さ30ミクロンの袋を使用していた場合を考えますと、それよりはむしろ厚さ18ミクロン(30×60%)の純粋ポリ袋を選んだ方が使い勝手では優れていることになります。両者を見比べると、お互いに使用しているポリエチレン量は同じですから、袋全体から発生する発熱量も同じということになります。
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このように、どこに存在するどのような炭カル袋であれ、一方ではそれよりは使い勝手に優れていて、かつ発熱量は同等な「純粋ポリ袋」の存在を常に想定することができます。炭カル袋に含まれた炭カル分は、ただ余計にくっついて強度を邪魔している無用な存在にほかなりません。
「炭カル袋は(単位重量当たりの)発熱量が低いから有利だ」という説明であくまで言い抜けようとする人を時々みかけます。そのような人はもはや、錯覚を利用して事情を理解しない素人をだまそうとしていると受け取られても仕方がないのではないでしょうか。
最後に田中勝・国立公衆衛生院廃棄物工学部長の言葉をここに紹介しましょう。「ごみの中に占めるごみ袋の割合は微々たるもの。袋の材質で焼却炉の燃焼温度がどう変わるのか論議してもあまり意味がない」(朝日新聞94年1月25日)
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今までのポリ袋は…
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+
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使われている
材料の重さ(10)
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燃焼カロリー
(10)
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灰
(0)
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運べるゴミの量
(10)
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炭カル袋は…
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+
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使われている
材料の重さ(10)
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燃焼カロリー
(7)
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灰
(3)
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運べるゴミの量
(7)
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+
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使われている
材料の重さ(14.3)
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燃焼カロリー
(10)
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灰
(4.3)
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運べるゴミの量
(10)
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(2)
「穏やかに燃え、燃えだれも少ない」は本当か?
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低発熱量説が論破されてしまったあと、次によく使われる理由がこれです。東京都清掃局も再三に渡り、この説明を公の席で繰り返していました。この「穏やかに燃える」とは、どうやら燃焼速度が遅いために炉内温度が管理しやすくなるというメリットをアピールしているようです。
しかしこれに関しては、最初に誰が証明してみせたのか不明ですが、現状では単なる“言いっぱなし”の類であると見るしかなく、どこにそうした根拠があるのかが全く明白でありません。今のところは「穏やかに燃える」と説明されただけで、周囲は「なるほど、そういうものか」と何となく納得させられてしまっているという気配が濃厚なのです。まさに“言ったもの勝ち”がまかり通っているような状況です。
95年11月7日に全国放映されたテレビ番組(「ニュースステーション」の特集コーナー「炭酸カルシウムなんかいらない!?」)では、実際に燃焼させてみた際の模様を映像で伝えることによって、かの言説がいかにいい加減なものであるかを証明しています。
「燃えだれが少ない」に至っては、それが何のメリットをもたらすのかさえ明らかでありません。言う方は、いったい何を訴えたいのでしょう?
しかも専門家による調査では、「プラスチックの炉内滴下・燃焼は考えられない」という報告もなされています(日本機械学会による厚生省委託の焼却実験『都市と廃棄物』16巻2号42頁)。
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(3) 「有毒ガスを発生しない」は本当か?
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「この袋は有毒ガスを発生しない無公害型製品です」。炭カル袋のパッケージ等にはそうした表示が印刷されています。事情に疎い人がこれを読めば、「普通のポリ袋だと有毒ガスが発生するのか?」と思うでしょう。
しかし、炭カル袋も普通のポリ袋も同様に、一般的説明レベルでいうと燃やすことで格別の危険性が見られるということはありません。ポリエチレンはその化学組成上、完全燃焼した場合には水と炭酸ガスしか発生しません。すくなくとも単体で燃やした場合には、炭カル袋とそうでない袋とで、発生するガスに違いが見られるわけではありません。
炭カルにメリットを見出すとすれば、それは塩化水素を中和する働きだけです。炉内ではポリエチレン以外の物質が燃えたときに塩化水素が発生しますが、炭カルはこれに反応して中和作用が起きます。清掃工場の多くではもともと塩化水素除去のため炉内などに消石灰を吹き込んでいますが、これと同じ働きをするわけです。炭カルは、袋に混入された場合でもうまく燃やせば3、4割程度が炉内で反応します。
しかし、ごみ全体に占めるごみ袋の量はせいぜい1%内外ですし、そのうちの10〜40%に相当する炭カルが中和作用を起こすからといって、ごみ袋が炭カル混入でなければならないという根拠にはなりえません。量的にはまともな効果を期待できるほどのものではありませんし、コスト的に考えても石灰粉は袋とは別に独自で吹く方がはるかに安上がりだからです。
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(4) 「クリンカの生成を抑える」は本当か?
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はじめに誤解を避ける意味でいうと、もとよりポリエチレンがクリンカになることはありません。過去に日本プラスチック工業連盟がクリンカの組成を調べたところ、プラスチックは確認されませんでした。
クリンカとは、炉内温度が1,000度を超えたとき、炉内を飛び散る灰の粒子(フライアッシュ)が羊羹のように溶けて炉壁に固着する現象のことをいいます。そこから発熱量の比較的高いポリ袋が炉内温度を部分的に上昇させ、結果的にクリンカの生成に影響を与えているのだという指摘はありうるでしょう。
しかしそれはあくまでも原理的な指摘であり、焦点がミクロ的といえます。ポリ袋が炭カル混入であるからといって事態がどれくらい改善されるのかという点については、客観的な比較分析は行われていません。炭カル混入を「必然」と捉えるだけの根拠にはなりえないと思われますが、いずれにしても専門家による評価が待たれます。
そもそも炉内の高温問題は、事業活動や生活様式の変化を背景とした近年のごみ質の変化、とりわけ紙ごみの増加による高カロリー化に根本低原因があるとみるのが本筋と思われます。
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3.炭カル袋の持つ問題点

以上みてきたように炭カル効用説は、その中心柱となる低発熱量説は全くの欺瞞であり、またそれ以外の周辺的根拠についてもあやふやか、実在したとしてもとるに足らない程度であることが明らかです。これだけでも炭カル袋を不要と片づけるには十分ですが、さらに炭カル袋はいくつかの問題点をも抱えています。
(1) 炭カル袋は使いにくく、破れやすい
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炭カル袋を使用する人々からは「ゴワゴワしている」「口が結びにくい」「セットしにくい」といった苦情が寄せられます。
「炭カル袋はもろくて破れやすい」。これも使ったことがある人の実感です。ごみ袋は生活を送る上での基本的な道具である以上、この機能面での低劣さは問題として小さくありません。
中には「自分は炭カル袋を愛用しているが、不自由はしていない」という人がいるかもしれませんが、そういう人は厚さが今使っている袋の半分の、炭カル抜きの袋を使用すべきでしょう。そうすれば地球にも財布にもやさしい結果になるのは間違いないですし、使用した際の満足感は低下しないはずです。
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(2) 炭カル袋はコスト高になる
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炭カル袋は普通のポリ袋に比べて製造コストが高くなります。炭カル袋を製造するには設備改造が必要です。インフレ機のスクリューの磨耗が通常のものより早いので、交換代が余計にかかってきます。
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(3) 炭カル袋は減量リサイクルを阻害する
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通常、炭カル袋に再生原料はまず利用されません。また、炭カルを混入した場合には工場内で発生した端切れなどのロスも、再生に回されることがありません。
このまま炭カル袋の生産がふえていくと、従来有効に機能していた原料リサイクルの環が断ち切られてしまうことになります。特に黒いポリ袋というのは、程度の良くない、ほかにこれといった活用先のない雑色再生原料の格好の受け皿として役目を果たしてきています。あまり黒袋の市場が狭まるようだと、このスクラップの行き場がなくなり、新たに産業廃棄物が発生するという皮肉な事態も心配されます。
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(4) 炭カル袋だと、残灰がふえる
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ポリエチレンは完全燃焼すれば灰は残りませんが、石である炭カルは灰として残ります。単体で燃やせばそっくりそのまま灰になりますし、うまく燃やして塩化水素と反応させた場合でも、6、7割は灰として残るといわれています。わずかとはいえ、それだけ最終処分場に向かうごみが増加するというわけです。
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4.炭カル袋の広まった背景事情

ポリ袋に不純物である炭カルを混入するとどうしても強度が落ちてしまうので、炭カルはもっぱらHDPE(高密度ポリエチレン)でつくられます。引っ張り強度ではHDPEに一歩も二歩も譲るLDPE(低密度ポリエチレン)では、満足のいく強度が得られないからです。
こうした事情をふまえ、炭カル袋はHDPEをもともと得意とするメーカーによって積極的に仕掛けられてきました。自治体当局に足を運び、売り歩いてきたのです。炭カル袋を営業品目に数えるメーカーは業界の中では完全なる少数派ですが、しかし大手どころが多いのです。大企業が立派なカタログを用意して売り込んできたら、その効果を疑う人は少ないでしょう。
炭カル袋は通常のポリ袋よりも高くつくので、市販品として店頭に並ぶことはありません。もっぱら指定袋という形により、その普及地域を広げてきています。業者が効果を売り込み、それを信用して自治体が採用に踏み切るというパターンです。採用する自治体がふえるにつれ、効用説は一人歩きを始め、近年では担当者の横並び意識も手伝い、特定業者が活躍しないところでも都市から都市へと広がるようになっています。
それでも炭カル袋を採用するのは小都市に限られていました。東京都(区部)が炭カル袋を導入する以前で導入を決めた大きな都市といえば、四日市市と横須賀市の名前が挙がるくらいなものでした。大都市では、さすがに炭カル袋の欺瞞性に気付く能力を備えていたということだと思われます。
ところが93年夏に日本最大都市である東京都が炭カル袋採用を発表しました。清掃研究所を自前で抱える都は、化学的効果について期待がもてないことを当初から技術者が了解していました。しかし、事務方の政策判断により採用が決定したのです。
都の分別基準ではポリエチレンは不燃ごみに分類されるため、それまで可燃ごみの収集袋は紙袋でというルールでした。一方、現実の集積場は、すでに黒のポリ袋が主流を占めている状況にありました。その時点で、客観情勢的には、分別徹底を目指しての袋の半透明化を計るためには紙からポリエチレンへ材質転換を公式に認めるよりほかにありませんでした。しかしここで都は、「プラスチックは炉に入れない」との原則を重視するあまり材質転換を認めるのを嫌がり、奇妙なレトリックを用いることにしたのです。すなわちそれが、炭カル袋は通常のポリ袋とは異なり「焼却に適する素材」であるから、可燃ごみの収集袋として用いることができる−−というものでした。
プラスチックである半透明ポリ袋を「プラスチックでない」と定義するために、炭カル袋のみプラスチックとしての扱いから除外するという離れ業に打ってでたのです。炭カル袋を炭カル袋たらしめている炭カル混入には、そもそも意味がないということを知った上でです。
このことには業界や市民団体が大きく反応しました。小さな町村で採用される程度ならば見過ごせてきたことも、800万都市の東京都が実施するとあっては影響が計り知れないからです。業界は公然と「炭カルに効果はない」と叫びました。これにはマスコミが飛びつき、連日「炭カル問題」が報じられることとなりました。「炭カル論争」の勃発です。
一連の報道は他県へ流されたこともあって、効果のないことが初めて全国の人々に認知されました。このときの学習効果により、その後しばらく自治体のあいだで炭カル袋を新規に採用する動きにブレーキがかかりました。しかし最近学習効果が風化してきたせいか、またぞろ炭カル袋採用に踏み切る都市が目立つようになってきています。今年にはいって小田原市や和歌山市、山口市などの中核都市が導入を開始しました。
検討段階で効果などないのだという情報がインプットされていなければ、俗に言われている説明は担当者の耳にはほんとうに甘く響く内容ですから、指定袋制定の折、とかく炭カル袋は採用されてしまうことになります。そうはならいないよう当会ではこれまで啓発に力を注いできましたが、これからも炭カル袋消滅のために一層ねばり強く活動を続けていく予定です。
炭カル袋のような根拠のないものに踊らされるようでは、この業界の良識が疑われる−−という思いこそが本意です。関係者の皆様にはどうかご理解とご助力をよろしくお願いいたします。
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