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『指定袋の論点整理 (2005年2月24日 改訂)

指定ごみ袋を考える会 小塩 勝男

 
プリント用:『指定袋の論点整理』(PDF形式)
 

1.はじめに

 
 行政マンは行政マンの立場でよかれと思い、袋のルールを強めている。この
事に関して袋業者の多くは釈然としない。指定袋制にはうそや根拠のない思い
込みが含まれている。反面、指定袋に弊害があることは意識されていない。有
料化しない段階での指定袋は無意味に思えて仕方がない。有料化の場合、指定
袋も一つの手段となり得るが、現在一般に行われている手法は問題がある。新
たな手法を確立することが必要だ。
 無論、われわれの意見がすべて正しいとは言わない。指定袋は、立場が違う
と見え方も異なる。議論を尽くした上で、なお意見が分かれるのは仕方のない
ことだ。大事なのは、業者のもつ情報が行政や住民に行き渡り、共通の土台か
ら議論を出発させることだ。そうした思いから本稿は、業者の視点で指定袋の
問題をとらえ論点をフォローしていく。
 

大要

 
われわれ袋業者は指定袋のことをどう考えているか。要約するとこうである。
 
1. 袋は、袋自体のリサイクルを考えると黒袋が望ましい。中身が見えるこ
とを社会が必須とするのなら、色味を特定しないでおくのが望ましい。どんな
色味でも半透明であればよしと規定したらよい。
 
2. 「分別徹底」や「収集安全」のためには、無地半透明袋で事足りる。認
定袋の本体印刷は不要である。言われている印刷が必要とされる理由は説得力
が乏しい。反面、印刷は環境負荷があり経済的に非効率である。
 
3. 有料化する場合、手数料徴収はシール方式が望ましい。有料袋で行うな
らば自由販売を維持できる工夫を加えた方式としたい。特に大都市での入札は
問題が大きい。
 

用語の定義

 
 本稿でよく使われる言葉の定義を明らかにしたい。
【無地袋】印刷のない袋。黒袋・青袋等。自治体が色指定した透明・半透明の
          袋も含む。
【指定袋】自治体ルールにより袋本体に印刷がある袋。自治体がサイズ、色等
          を指定しても本体印刷のないものは「指定袋」としない。
【認定袋】各業者が自治体の認定を受け製造した指定袋で、袋代に手数料が含
          まれない自由販売の袋。売価は店が設定するためまちまちとなる。
【有料袋】販売代金が収集手数料として自治体に納付される袋。手数料徴収手
          段としての袋。
 
    ◎無地袋
        ・透明・半透明
        ・自由(黒袋)
 
    ◎印刷袋=指定袋
        ・認定袋(袋代=業者の売上げ)
        ・有料袋(袋代=自治体の収集手数料)
 

指定状況の4段階

 
 われわれ袋業者は行政による袋指導をつぎの4つに分類している。
  a.自由(黒袋も可)
  b.色指定(無地袋による透明・半透明化)
  c.認定制(指定袋・手数料徴収なし)
  d.有料化(指定袋・手数料徴収あり)
 
 変化の向きは制限の緩い段階から厳しい段階へ一方通行であり、逆行する
ケースはまれである。
 4段階あるうち自治体がどれを選ぶかは、それぞれ地域の住民・議員・行政
の考え方次第だが、わけても大きいのは行政当局者の意向である。特に小都市
に言えるが、収集部門のキーマンが現状を変えようと決意した場合、有料化は
別としも、透明化や認定制を開始するのはさほど困難でない。どこでも有料化
に反対する住民は大勢いるが、透明化や指定袋化に反対の声をあげる住民はい
ないためである。
 住民は、透明化や指定袋化を考えるのに必要な知識を持ち合わせているだろ
うか。問題を検証しようにも、その視座を持ち合わせていないのが実情だろう。
 

2.ごみ袋を取り巻く状況

 

ポリ袋の普及

 
 最初にごみ収集の流れをふり返ってみよう。昔、ごみは人や牛が引いた大八
車、リヤカーが各戸収集していた。1950年代にパッカー車が登場し、収集作業
が機械化された。1960年代初めにポリペールとポリ袋がはじめて登場し、排出
容器が使われだした。その後は急速に普及し、今日ではごみ収集はポリ袋なし
に考えられない状況となっている。
 ポリ袋はすでに40年以上人々の暮らしに溶け込んでいる。メーカーは大小200
を超す。製品は主に日雑系卸を経由して小売店に渡っている。生産量は年15〜
20万トン、市場規模は600〜800億円程度と推計される。日用雑貨ではトップク
ラスの主要商材だ。
 1980年代まで黒袋が主流だったが、90年代から「中身が確認できる袋」を求
める動きが広がり透明・半透明袋に移行している。ポリ袋のほかに紙袋があ
り、以前は各地で推奨されていたが、現在は透明化の影響で使用地域が激減し
ている。
 

指定袋化と有料化

 
 1993年、東京都清掃局(区部)が半透明推奨袋制度を導入し、業界が揺れ
た。東京都の場合、効果がないことが明らかな「炭カル混入」が材質指定され
たため周囲が反発した。また人口800万の商圏が不用意に規格変更したため品不
足パニックが起こり市場が騒然となった。
 この同じ頃、伊達市が有料化で3割減量したという事例報告が盛んに取り上げ
られ、有料化機運に火がついた。二段階方式の守山市や超過量方式の出雲市、
高山市にも注目が集まった。
 ちなみに伊達市で導入された1枚40〜60円の有料袋は濃く着色されており、中
身の確認は不可能。当時、市担当者は「透明にしようなどとは思ってもみなか
った」と述べている。そういう時代だった。
 東京都や伊達市が注目されたことで全国で袋の透明・半透明化、指定化の動
きに拍車がかかった。現在、指定袋を導入している市町村数は下記となってい
る。
 
                  市町村数比                   人口構成比
    指定袋導入    78%(2412/3101市町村)   54%(6927/12770万人)
    有料化        43%(1324/3101市町村)   20%(2525/12770万人)
    
    (2004年8月、指定ごみ袋を考える会調べ)
 
 指定袋化・有料化は中小都市ではほぼ導入し尽くされた感がある。まだ手つ
かずで残っているのは人口10万以上の都市ばかりだ。大都市でも黒袋は大方一
掃されており、「中身の見える袋」でないと排出できない。
 

大都市が動き出す前夜

 
 指定袋化が進んでいるとはいえ、指定袋を使っている人々の存在はまだ全体
の半分程度だ。有料化で手数料を負担している人々の割合も20%に留まってい
る。
 これから大都市が指定袋・有料袋の方向に本格的に動き出すと、この比率が
大きく動いていくと見られる。長らく日本人の生活と共にあり続けたごみ袋だ
が、そのあり様が一変してしまう可能性が高い。
 指定袋化や有料袋化に踏み切ろうとする自治体が急増している。そこでは十
分な検討がなされているだろうか。見渡したところ、「結論ありき」で審議が
進められ、住民が知らないうちに方針が固められるケースが多い。決まってし
まえば後の祭りで、「排出者責任」「負担公平化」という掛け声に住民は従う
しかないのが実情である。
 影響が桁違いに大きい中核都市、政令市クラスでも、従来のように議論不在
のまま指定袋化・有料化が進められてしまってよいものだろうか。今後もっと
論議の内実が深化し、業者も納得できる流れに変わってくれればと願わずにい
られない。
 
 

3.業界事情

 
 透明化が進み、指定袋が広がり、有料化が増えている。袋業者は困惑し、ビ
ジネスのゆくえを案じている。はたしてごみ袋は正しい方向に向かっているの
だろうか。自治体が決めたことは従うしかない。従っている側の抱えている悩
みを整理したい。
 

透明化で宙に浮く再生原料

 
 もともと黒袋は着色端材を再生した原料の恰好の受け皿であり、「リサイク
ルの優等生」とされてきた。一方、透明・半透明袋は着色再生原料が利用でき
ないため、バージン原料を多用せざるをえない。LCAを考えると黒袋がベス
トである。
 しかし中身が見えないと分別収集に支障があるという考えが出てきて以降、
黒袋は駆逐されてしまった。このため着色端材は工場内で再利用できなくな
り、廃棄処分されたり中国に輸出されたりしている。その規模は年数万トンに
及んでおり、おそらくマイバッグキャンペーンで発生抑制されたレジ袋の総量
を上回るだろう。
 たとえば庭ごみであるとか信頼できる事業所から出たごみなどは、袋の中が
見えなくても支障ないはずである。せめてそのような場所での袋は黒を認めて
いただけないものかと思う。日本ポリオレフィンフィルム工業組合では、黒袋
にもエコマークが適用可能となるよう日本環境協会に基準改訂を申し入れてい
る。
 

雑色半透明の普及を

 
 さまざまな色がミックスされた再生原料で袋を作ると色味が一定にならな
い。業界はこれを「雑色」と呼んでいる。従来雑色はそのままでは売りに出せ
ないため、色を隠すため黒の顔料を練りこんで黒袋としてきた。これに顔料を
加えなくしてやることで「雑色半透明袋」を作ることができる。
 もし中身の見えることがどうしても外せないというのであれば、せめて「雑
色半透明」を認めていただきたいと業界は願っている。中身が見えれば「色味
はどうでもかまわない」という基準としてもらえたらよいことである。
 金沢市、豊川市、川崎市などはこの基準で運用されており、「雑色半透明」
「黒半透明」が人々の間で認知されている。金沢市内のごみステーションはど
こもグレー系の袋の山だが、袋の一つひとつは中身が確認できる。
 

印刷はリサイクルの障害

 
 指定袋を製造する際も、当然端材は発生する。たとえフィルムが無着色(ナ
チュラル)でも、袋本体に印刷があるとそこから再生された原料は黒か雑色に
しかならない。もし印刷がなければナチュラルの端材として分別・再生し、透
明袋に返すことができる。袋の印刷はポリエチレンのリサイクルにとって好ま
しいものと言えない。なくて済めば、ないのが一番である。
 

インクは惜しんで使いたい

 
 インクはある種の「毒」である。使わないに超したことはない。使うとして
も必要悪として惜しんで使うべきである。ところが指定袋の本体印刷は多量の
インクを使う。100万都市がもし指定袋を導入したら、スペックによって違うが
大体年1000トンから2000トンのポリ袋が製造され、そこで5トンから10トンのイ
ンクが消費されることになる。
 中国・東南アジアを歩けば、そこら中の工場で日本の指定袋が輪転機にかけ
られている。現地の人々は「日本人はなぜこんなに毒を塗るか?」と訝ってい
る。
 

アイテム増地獄

 
 認定制の自治体が一カ所ふえるごとに、メーカー各社のラインナップに新た
な指定袋が加わる。ひとつの指定袋で何の用途にも出せるルールの自治体はま
だいい。メーカーは大・中・小と3サイズ用意すれば間に合う。しかし、なか
には「可燃用」「不燃用」「資源用」などの区分ごとに別個の仕様を設ける自
治体がある。3区分に3サイズずつ用意したら9種類である。
 指定袋は必ず透明または半透明であり、中身が識別できる代物だ。にもかか
わらず「可燃」と「不燃」で別の袋を用意させ、住民に使い分けを求めるとい
うことに、どれほどの意味があるのだろうか。
 色指定であれば一つの製品が全国で共用できるが、指定袋はそこ以外で用い
ることができない。このため製造・保管・配送の効率は落ちる。個々業者がこ
れを克服すべく努力するのは当然としても、社会全体としてみると非効率な経
済活動となっている。
 大手チェーンストアでは「ごみ袋」のカテゴリーにおいて統一的なオペレー
ションができない状況となっており、各店でイレギュラー対応を余儀なくされ
ている。広域から集客する大型店は複数の自治体の指定袋を確保せねばなら
ず、対応に苦慮している。小売店ではごみ袋を扱う熱意が薄れつつあり、指定
袋制度をフォローしない店も出てきている。
 袋の製造流通の環境負荷ミニマムを考えれば、認定指定袋より色指定が望ま
しい。今日の指定袋の氾濫は、業者の目には社会資源の壮大な無駄のように映
る。
 

有料袋制は業界を接収

 
 認定袋制の広がりは業界にとって悩ましいが、有料袋制は一層深刻であり、
死活問題となっている。
 有料袋制では、住民が店で払った金が自治体に全額収納される。そうした金
の流れを作り上げるため、自治体は袋流通を我が物として独占管理する。結果
としてメーカー・問屋の事業機会が消滅する。小売店は袋販売で得ていた利益
が吹き飛び、業務費用とペイしないわずかな手数料を受け取る立場となる。
 その理由はというと手数料を行政が都合よく集めるためである。手数料なら
シールでも集められる。「なぜシールにしないのだろうか?」との思いが業者
の頭をよぎる。
 

まとまれない業界

 
 袋業界は行政マンから「言うことがバラバラでまとまりがない業界」と言わ
れる。指定袋を導入すべきでないと言う業者がいる一方、別の業者は指定袋を
売り込んでくる。売り込む業者は自社製品の優位性を説き、他社品をけなす。
これでは聞く方が混乱して当然かもしれない。
 ごみ袋はもともと市販品から出発している。メーカー・問屋・小売店による
業界が袋を普及させてきた。市販品には市場のルールがあり、業者は良品を安
価に提供することで生き残っている。
 指定袋制が導入されると競争ルールに変化が生じ、市販品で販路を広げられ
ない業者たちに躍進のチャンスが生じる。一部の業者は指定袋に活路を求めて
「炉にやさしい」「ダイオキシンを抑制」「収集に安全」などの製品を開発。
自治体に営業をかける。
 ごみ袋のそうした"付加価値商品"に対し、一般消費者はきわめて冷淡だ。売
場に並べても売れない。自治体は逆で、それらに手を伸ばしたがる傾向にあ
る。無論それら"付加価値"は本当のところまやかしに過ぎないため、大抵の自
治体は採用しないが、見抜く力のない自治体は導入してしまう。うまくしてや
った業者には100%のシェアが転がり込む。たとえわずかな人口の都市であって
も、その安定した利権は企業にとり甘美である。
 価格競争力の劣る国産メーカーは、海外製品を「品質が信頼できない」と
し、「国産限定」とするよう自治体に働きかける。聞き入れた自治体では住民
が国産品を使う。品質に厳しい日本の量販店が海外品を売場に並べている時代
にである。有料袋の場合は「担当者が現場視察できること」の一文を要綱にす
べり込ませることで、実質的に輸入品排除を実現している。
 袋の材質や形態をどうすべきか。輸入品を認めるべきか。そうした行政マン
の判断の一つひとつが利権のゆくえを左右する。量販や卸、市販品メーカーは
自由販売の存続を願う。勢力図を塗り替えたい業者は異なる動きをする。真実
はどこにあるか。行政マンの見識が問われる。
 われわれは市販品の業者であり、袋は自由競争を通じて供給されるべきと信
じている。主人は「消費者」だ。袋の規格は自由とし、多様な選択肢の中から
消費者に選んでもらうのが最善と見る。
 袋業界の過去を振り返ると、自分で身銭をきって使ってくれる消費者の目線
より重視すべきものはないと感ずる。こと袋に関しては、行政マンよりマーケ
ットのほうが目が確かである。無益なもの、使いにくいものは自然と消えてい
く。ごみ袋の場合、規制が何も存在しなくても消費者に不利益は及ばない。袋
業界に「消費者保護」の発想は無用と胸を張って言える。
 われわれはどうしても指定袋に向かおうとする自治体に対し苦言を浴びせる
形となってしまう。われわれは持てる情報をありのまま提示し、あとは行政マ
ンの度量に期待するしかない。行政マンには煙たい存在かもしれないが、ぜひ
分かっていただきたいところだ。
 
 

4.認定袋制が導入される理由

 
 自治体の担当者から指定袋が必要だというその説明を聞くと、本当に指定袋
でなければ解決できない問題なのかと考えてしまう。うがった見方をすれば、
はじめに指定袋導入の決定がありきで、「こう説明しておけば、だれも逆らわ
ないだろう」と後から理由がひねり出されたような印象を受ける。足元の現実
で困っていて「それを解決するには、これしかないんだ!」という強い信念が
あまり伝わってこない。なんとなく周りも実施しているから「乗り遅れないよ
う自分のところも」というところではないだろうか。
 本章では「有料化以前」の段階における認定袋の導入理由を考察する。なお
有料袋制に関しては章を改め、後段で論じたい。
 

意識啓発

 
 認定袋導入の際、枕詞のように言われるのが「住民の意識啓発」だ。本当に
そのような効果があるのだろうか。
 ふつう指定袋に記載される情報はいたってシンプルだ。自治体名、分別区
分、簡単な注意事項など。たまに地元の風物詩やマスコットの絵が入る。それ
らは無地袋と比較して、住民の意識にどういう違いをもたらすことになるか。
 導入した自治体の行政マンから「効果があった」という声が聞こえてくる。
しかしデータで論証された例はなく、本当のところどうなのかよく分からな
い。筆者が見て歩いた範囲では、指定袋の地域でも出し方がズサンで見るに忍
びない集積所は存在するし、無地袋の地域でも分別がなされていて小ぎれいな
集積所は当たり前に存在する。
 たしかに印刷がないよりあったほうが意識への働きかけがありそうな感じは
する。ではそれが人々の意識にどう作用し、具体的にどんな行動を促し、「分
別徹底」と「排出抑制」にどのくらい結びつくというのだろうか。肯定するに
せよ、否定するにせよ、袋と排出行動の関係性を実証的、分析的に示すのは困
難だろう。困難だから「言った者勝ち」となっている現状ではないか。
 たとえ袋が黒だろうと、大方の住民は自治体の決めたルールどおり分別する
だろう。ルールを守らない住民は一部だろう。不届者の矯正に指定袋は有効
か。住民全員が印刷袋を使うべきなのか。
 岩国哲人氏はかつて出雲市長時代に、指定袋を「ごみに制服を着せて送り出
してあげたい」と表現した。指定袋を擁護する人々の心持ちを端的に表わして
いると思われる。指定袋の弊害を骨身に知る者には、それが「情緒的」「ファ
ンタジー」と映る。
 われわれが「主人」と見る消費者たちは、一体このことをどう見るだろう
か。そこでビジネスマンは立ち止まり、自問自答を重ねる日々である。
 

町の美観

 
 「町の美観を守るために」という説明も多い。しかし考えてみれば、袋の
「印刷」が美観を守っているのではない。ステーションに積まれた袋がみな同
じ色に揃っていることが美観につながっているのだ。
 たしかに黒袋、青袋、レジ袋などが混在したステーションは見た目ゴチャゴ
チャしていて、きれいと言いがたい。一方、袋が一色に統一されたステーショ
ンは小ぎれいに見える。色が統一されていれば、印刷があろうと無かろうと美
観にさしたる差はない。美観を言うなら「色指定」で十分だろう。
 

美観か、リサイクル、リユースか

 
 優先すべきは「美観」か、あるいは「リサイクル」か。美観を言い出せば、
雑色半透明は使えなくなる。雑色半透明を推奨すれば色味が安定しない。美観
は、本当に大切なのだろうか。
 ちなみにレジ袋やショッピングバッグなどは美観を損なうだろうか。それら
をごみ出しに再使用するのは悪か。袋を店で受け取ることを悪だと規定すれ
ば、そうかもしれない。しかし行きがかり上受け取ることは誰でもあるはず
だ。受け取ってしまった袋をごみ出しに使えないのは窮屈な社会だ。
 「もったいない」より美観やルールが優先されるべきか。そこまでルールに
こだわらないと人々の排出マナーは悪くなってしまうのだろうか。やはり「制
服」を着せないといけないのだろうか。
 

流通管理

 
 最初から「売価統制」を企図して指定袋制を始める自治体もある。その場
合、意図は二通りある。一つは、住民が袋を少しでも安く買えるようにとの"配
慮"からきている。外袋に売価を印刷させ、店がその売価を守るよう指導する。
 もう一つは上記と反対に、売価を高めへ高めへと誘導するケース。有料化に
は踏み切らないが、認定制の下で擬似的にインセンティブがかかることを期待
して行われる。そのためわざとコストのかかる特殊な規格を指定する。
 両方とも、市場競争を外から人為的に歪めようとする試みである。その評価
は読者に任せたい。
 

<コラム> 不可解な事例(1)――商工会を窓口に利用

 
 自治体が地元の商工会や農協と排他的に業務提携を結び、商流を管理してい
る事例を少なからず見かける。山間僻地などであれば農協に販売窓口として協
力を仰ぎたい事情は理解できるところだが、独占的地位を与えるのは行き過ぎ
である。ましてや都市部において商工会と排他的関係を結ぶケースはきわめて
不適切である。自治体が商工会に販売窓口の独占権を与え、小売店はそこから
しか指定袋を仕入れられない形となっている。商工会への「加盟」が指定袋を
取扱う際の条件とされ、小売店が多額の年会費を要求されるケースもある。
 

売価を統一したい

 
 どうして自治体は流通を管理下に置きたがるのか。一つには、多くの自治体
が売価をなるべく一律にしたいと願っているためだ。担当者は「売価がバラバ
ラなのはおかしいと住民が言ってくる」と事情を打ち明ける。「行政が認定し
ているのに、地区によって売価が違うのは不公平」であるというのだ。そうし
た声は、主に自治会を支えている高齢者から上がってくるようだ。
 住民の一般的な生活感覚では、指定袋の売価がバラバラなのはむしろ当然と
受け止められるはずである。業者が自由競争で販売する認定制指定袋で売価が
一律なほうが不自然である。「売価を一律にせよ」は所詮ある種の思い込みに
とらわれた人々によるマイナーな要望に過ぎないと思われる。しかし行政マン
はそうした声を極力尊重しようとする。
 

小売店は儲け過ぎているか

 
 小売店はごみ袋で儲け過ぎているのだから、多少取り分を少なくさせても構
わない、と考える行政マンは多い。量販店の値入率が4割、5割あると聞いて
「そんなに儲けるのはけしからん」というわけだ。
 小売店は厳しい競争にさらされながら自己責任で売価を決定している。安く
するのも自由、高くするのも自由。ドラッグは袋を集客の目玉とし、薄利で走
る。コンビニは量を追わず利益をとる。スーパーは定番は高いが特売は安い。
袋の場合、他店とのかけ引き、消費者とのかけ引きがあり、実勢売価は一様で
ない。安値と高値で倍違うケースもザラだ。
 談合と無縁の世界だ。そこで値入率を何割以上とるのを不当とするか。それ
を誰が断定できるのだろうか。店では人件費、電気代、設備投資、宣伝費など
の費用が発生している。もし2割しか稼げないようだと多くの店は採算割れと
なるだろう。
 通常、店は売場単位で収益管理しており、単品でコスト計算していない。し
たがって単品ごとの「あるべき値入率」をはじくことができない。もし袋の販
売から上がる利益を大幅に減らせば、店は減少分を他の雑貨商材を高く売るこ
とで補うしかない。仮に行政が売価を低めに指導しても、それがそのまま消費
者の利益に結びつくとは考えにくい。社会全体としてみれば、行政が袋の利幅
を監視することに益はないはずである。
 

品質管理

 
 最近は聞かれなくなったが、前までは「悪質業者を排除するため指定袋制が
必要」などとし「品質保持」をうたう自治体があった。これは業界として到底
容認しがたい理由である。現実に市場に悪質な製品がはびこる状況などない
し、またたとえ一部に流通したとしても市場に長くあり続けるのは不可能だ。
クレームに敏感な日本の小売店が粗悪品を放置するはずもないからである。
 むしろ指定袋製造を一社に集約した自治体でこそ「品質保持」が問題とな
る。不良品が続いても代替品が存在しないため、問題の製品をカットしたくて
もできないためだ。店は有効な手が打てず苦悩する。
 行政マンが市販品を信認しないその姿勢は一体どこから来るのか。なにをも
って粗悪品なのか。通常、袋の品質が人々の健康・安全を脅かすことはない。
収集効率に影響が及ぶことも実際上ないと言ってよかろう。自由競争さえ行わ
れていれば、行政が品質の番人を自任する必要はない。
 東京23区清掃協議会は、2004年12月から推奨袋制度の規格から厚さの規定を
なくし、どこまで袋を薄肉化すべきかの判断を業者に委ねることにした。画期
的判断である。業者に任せても粗悪品は出回らないという見識が根底にある。
行政にはそうした姿勢を求めたい。
 

越境対策

 
 ごみ越境対策で指定袋を導入するケースもある。都市によっては近隣自治体
からごみが越境流入することが問題となっている。指定袋にすればそうした行
為がしにくくなるだろうという考えだ。
 事情は分からなくないが、抑止効果はどれほどだろうか。実際、越境して捨
てられるごみが年にどれくらいあるか。それがために住民全員が指定袋を使わ
なくてはいけないものだろうか。
 

付加価値商材

 
 「付加価値」が指定袋導入の誘因になっているケースがある。どうせ指定す
るなら独自性の出せる一風変わった製品を採り入れたいと考える行政マンは多
い。そうした担当者が関心を示すのが、昔であれば炭カル袋。今ならダイオキ
シン抑制剤入りや特殊な持ち手付きの製品などだ。
 「環境にやさしい」などの説明を受け入れて採用に至る自治体が後を絶たな
い。真に有用であれば業界あげて普及に取り組むはずである。一握りの業者が
独占をねらって売り込みをかけてくる商品には警戒心が求められる。
 

二段階論の罠

 
 近い将来有料化へ移行することを視野に入れ、そのステップとして指定袋制
を導入しようと考える自治体は多い。住民に指定袋に慣れておいてもらおうと
いうわけだ。しかしこれをすると、いざ有料袋に切り替える際に旧品の在庫処
理で苦しむことになる。製造業者、小売店、問屋の流通在庫。そして家庭の買
い置き在庫。それらを廃棄せず使い切ってから新しい有料袋に移行するには、
半年の猶予期間では足らない。20Lや不燃用など非売れ筋の滞留品などは、その
処理に数年を要すこともある。
 もともと認定制であるところから有料袋制への移行を予定している福岡市で
は、これからまさにその問題に直面しようとしており、担当者は頭を抱えてい
る。「4、5年先に有料化を見越しながら新たに認定指定袋を導入しようとす
る自治体には、絶対にやめたほうがいいと助言する」と担当者は言い切る。
 

袋に減量効果があるか

 
 指定袋には減量効果があるだろうか。認定袋制の場合は、袋に印刷が入るこ
とで減量効果があるかどうかがポイントとなる。一方、有料袋制の場合は、有
料化そのものの是非をどう認識するかがポイントとなる。はじめに認定袋と減
量効果との相関性について考えてみよう。
 
 

分別収集区分増と抱き合わせ

 
 これまでのところ認定袋の効果に関する研究はなきに等しい状況である。憶
測で論じるのを許してもらえば、認定袋制と多種分別を同時に開始するケース
ではそれなりの効果が出ているが、多種分別を伴わないケースでは効果がない
か、あっても微々たるものである。このことから認定袋そのものには減量をも
たらす力がなく、効果のほとんどは並行して実施される資源回収に起因してい
るのだと見ることができる。袋の印刷は資源回収をサポートする脇役にすぎな
くて、その脇役が不在でも多種分別の効果にさして影響しないだろう。指定袋
がさも重要ツールであるかのように脚光を浴びるのは分不相応に思われる。
 

横浜市は無地袋で3割減少

 
 横浜市では2004年10月からごみの分別収集品目拡大を6区で先行実施し、そ
の結果がニュースとなった。10月の6区の燃やすごみ収集量が実施前と比較し
て約3割減少したというのである。資源物を含めた収集量合計で見ても、実施
前との比較で約23.1%減、前年同期比では約16.9%減となっており、ごみの発
生抑制も同時にあったと見られている。
 横浜市には指定袋制はなく半透明の無地袋で収集している。それでも分別収
集開始でこれほど大幅な効果が得られたということは、他の自治体でも指定袋
なしで同様の減量が達成可能と見ることができる。
 

名古屋市での2割減量

 
 2000年2月、名古屋市は「ごみ非常事態宣言」を出し、2年間で20%、20万
トンのごみ減量を呼びかけた。認定制指定袋の導入や容器包装リサイクル法に
基づく分別収集の導入を進め、2年後に目標数値を上回るほどに削減された。
 この取組みの評価をめぐっては解釈がそれぞれにあり、「有料化しなくても
減量に成功した」とも言われるし、「指定袋で減量に成功した」とも言われ
る。しかし3割減少した横浜市の事例となぞらえて考えれば、「無地袋だった
としても減量に成功していた」と見るのが妥当だろう。
 

<コラム> 有料化は永続的か

 
 「有料化でごみは減るか?」は10年前から議論されているが、いまだ決着を
みていない。
 環境省は有料化の旗振りに務め、自治体を支援している。環境省としては有
料化で何十パーセントも減量するとは期待しないが、1割程度の減量効果を見
込んでいる。統計上ごみが減る理由には「資源回収」「排出抑制」「事業系ご
みの流入減少」「近隣自治体への流出」「野焼き」「不法投棄」などが考えら
れる。そのうち寄与の最も大きいのは、しくみとして人々に提供される資源回
収の品目拡大である。一方、個人のライフスタイル改善は、期待と裏腹に寄与
は小さいと見られている。リサイクルは3Rのなかで優先順位は最後だが、量
的な貢献は主役級である。
 リサイクルに熱心に取り組んでいる自治体は、有料化せずとも相当の減量化
を達成しており排出原単位が低い。そこから有料化しても目立った減量効果が
見込めない。一方、有料化と同時にそれまで不備だった資源回収をテコ入れし
た自治体では、排出量の下落率が大きく出て、「効果があった」と評される。
そうしたことから「有料化しなくても(リサイクルをしっかりやれば)減量で
きる」と言えるし、「有料化すれば(リサイクルが後押しされ)減量できる」
とも言える。
 結局有料化すべきかどうかは、リサイクルのきっかけを有料化に求めるか、
ほかの地道な指導やしくみ作りに求めるか、という考え方ひとつである。有料
化しようとする行政マンは「地道な対策を十分してきたが限界があるので有料
化せざるを得ない」と言い、かたや反対する住民は「できる対策を十分してい
ない」と指摘する。いまは推進派に勢いがあり、第二次導入ブームとなってい
る。慎重派は肩身が狭い様子だ。この情勢があと何年かは続きそうだが、では
10年後はどうか。有料化が一巡した後、手数料は徐々に引き上げられフルコス
トに近づいていくのか。あるいは有料化への希望が解け、ふたたび無料にもど
っていくのか。
 袋業者は有料化の是非にコミットすべきでないが、方針決定により運命が翻
弄される立場であることから、行政と議会には時勢に流されず長期的視野で本
質に迫る検討をお願いしたい。
 
 

5.レジ袋と指定袋の関係

 
 レジ袋の評価は難しい。レジ袋は家庭で重宝されており、ごみ袋や内袋、水
切り袋、保存袋として利用されている。レジ袋を二度、三度と利用せず捨てる
率はごくわずかであるとの報告もある。
 人々がレジ袋を二次利用できる範囲で節度をもって受け取るかぎりは、資源
の最適配分にかなうのではないか。レジ袋のごみ出し利用を禁じてしまえばレ
ジ袋はごみになるしかなく、受け取ることが無駄となる。しかしごみ袋として
利用が認められる状況では、適量の受取りは許されるだろう。商品としてのご
み袋は一度しか使われないでその役目を終えるが、レジ袋は二度使われてごみ
になる。小家族ではレジ袋で出し、足りない家庭ではごみ袋を買う、というこ
とでよいのではないか。
 レジ袋は「ごみとなるから受け取るな」と言われる。「受け取ったレジ袋は
ごみ袋として使え。使える以上には受け取るな」という指導ではまずいだろうか。
          * * *
 レジ袋は容器包装類の中でもとりわけ目につくから悪く見られる。しかしそ
れを言うなら、指定袋こそ資源浪費的なプラ袋の代表格だろう。指定袋制はレ
ジ袋をごみにする。レジ袋の生産規模は年間約40万トンで、ごみ袋の約2倍あ
る。極論して日本人全員がレジ袋でごみを出せば、ごみ袋が数万トン減る計算
になる。逆にレジ袋で出すのを全面禁止したら、ごみ袋の発生が今より数万ト
ン増えることになる。
 「レジ袋はなくせるはず」との立場にたてばレジ袋は余計な物だ。「ある量
は残る」との立場にたてばレジ袋の二次利用はごみ袋の発生抑制に通じる。ど
ちらが真実だろうか。
          * * *
 レジ袋で出すのと指定袋で出すのとで、減量効果にどれだけ違いが表れるだ
ろうか。共にプラスチックの袋に変わりないが、レジ袋だと人々は悪く行動
し、指定袋だと良く行動するだろうか。人々をより良く行動させる方策として
指定袋は必要なのだろうか。
 
 

6.有料袋制が抱える問題点

 
 ここまで認定制の論点を見てきた。いわば「有料化以前」の論点である。こ
こから先は有料化した段階での指定袋の問題を見ていきたい。認定袋は袋の
「モノ」としてのあり方が焦点となるが、有料袋は手数料という「公金」が関
係してくるため、もっぱらその流通のあり方が焦点となる。
 有料袋は手数料徴収手段の役目を負わされている。袋は流通業界を流れる
「民生品」であるが、手数料は「公金」である。この「民」と「公」という対
照的な性質が同居することで業界に軋みをもたらしている。この矛盾を見てい
き、克服する道を検討したい。
 

有料袋制に代わる方法を

 
 われわれ袋業者は入札による「接収」という事態を受け入れがたい。といっ
て、自治体の都合を無視しようとも思わない。お互い誠意をもって歩み寄り、
折り合いがつくのが一番と考える。そのためにはどうしたらいいか。
 自治体が袋ビジネスを独占する従来の有料袋制は、自由主義経済の基本原理
と反するものであり許されない。業者は代替策としてシール方式が望ましいと
見る。
 シール以外で有力と考えられるのが、有料袋による「申告納付方式」であ
る。従来の袋流通を残したまま、店が収集手数料を自治体に納める形である。
住民が払う代金を「袋代」と「収集手数料」に分け、「袋代」はそのまま業者
の売上げとし、「収集手数料」は店が申告に基づいて自治体に納付する。
 

手数料徴収法の類型

 
 手数料を徴収する手段には、以下の3種類がある。
 
・ 有料袋
・ シール
・ 購入チケット
 
 現在は「有料袋制」が主流である。「シール制」は高山市や大垣市、富田林
市など7市町村で構成する南河内清掃施設組合、佐世保市など、超過量有料制
を採用する都市で実施されている。また東京23区の事業系ごみの区収集分では
単純有料制で実施している。「購入チケット制」は長野市が行っている。
 

有料袋制の類型

 
 有料袋制は、自治体が流通に介入するその形により3種類に仕分けすること
ができる。
 
(1)入札方式  自治体が入札で袋を全量買い上げ、小売店に配荷する。自
      治体が袋の所有を通じて自らを流通内に置き、上流と下流を結束し、一
      元的な管理者となる。独占企業の起業に等しい。
 
(2)一社固定方式  自治体が、供給を担う業者を1社に絞り長期間固定す
      る。見積もり合わせ、提案コンペなどで選定した業者と長期に随意契約
      を交わす。
 
(3)申告納付方式  自治体は自らを流通過程の外に置き、業者の競争を見
      守る。そして業者に有料袋の扱い量に応じて手数料を申告納付させる。
      複数社による競争を予定する。事例として上田市では問屋が納付してい
      るが、われわれは小売店が納付する方式を提案している。
 

<コラム> 不可解な事例(2)――競争原理の働かない入札

 
 有料袋制の派生形で、合点のいかないパターンが二つある。ひとつは「競争
原理の働かない入札」である。入札の体裁をとっていながら、仕様の中に1社
しか対応できない特殊な素材や加工を規定している。そのような場合、自治体
が多数の代理店を入札に呼んでも、それら代理店が最終的に見積もりをとる先
は特定の1社となる。実質的にその企業がどの代理店を落札させるかの決定権
を握る。
 そのような入札は特定企業の独占継続を追認する儀式でしかない。当局者が
実情を把握しているのか定かでないが、この手の入札は各地で行われている。
どうしても特殊仕様にこだわりたいのなら本来は随意契約とすべきである。
 

<コラム> 不可解な事例(3)――丸投げによるコンペ方式

 
 もうひとつは近年多摩地方などで広がりをみせている「コンペ方式」だ。通
例、有料袋制は「製品(物品)」と「保管配送(役務)」で業者を別々に選ぶ
のだが、「コンペ方式」ではこれらが抱き合わせにして1社に任せる形がとら
れる。随意契約が交わされ、いったん結ばれた関係は5年以上(実際は半永久
的に?)固定化される。
 委託業者を選定するのに「提案コンペ」が開催される。応募業者が運営体制
の構想をプレゼンする。それを自治体関係者らが審査して1社に絞り込むので
ある。いずれの自治体も審査は非公開となっている。落とされた業者は後日、
当局からそれとなく「価格だけでなく、過去実績などを総合的に評価した」な
どの説明を受ける。しかし自社がどう評価されて落とされたのか、当落を分け
た差が何だったのかは知らされない。住民も同じである。部外者には業者選定
の公正性を検証するすべがない。
 

入札方式は許されるか

 
 有料袋制をとる自治体では通例、一般競争入札がとられている。入札が選ば
れる理由は、それが所有を通じ流通量を捕捉できて不正の余地が少ない方法で
あると考えられているためだ。しかし、他方で入札方式は「接収」という問題
を含んでおり、本来的に許される方法なのかが問われる。
 

「接収」は認められるか

 
 たとえば福岡市では、有料袋制の検討でアンケート調査が行われ、メーカー
27社と問屋50社が認定袋に関わっていることが分かった。140万市民の需要を賄
うのに、それくらい厚みのある流通秩序が形成されていたということであり、
業者の目からみて納得できる結果である。入札はこれを人工的に製造1社とデ
リバリー1社に集約する。福岡市ではメーカー出荷額で4億円、店頭販売額で
8億円の市場がなくなる。数千人の従事していた事業領域が接収される。その
跡地に市が独占事業を興す。27億円を市民から徴収することのために。産業政
策上、競争政策上、そのような形で市が経済に介入することが許されるだろう
か。「財産権」や「職業選択の自由」は市民社会の根本秩序をなす権利であ
る。入札方式はそれらをないがしろにしているのではないだろうか。
 素人目には自治体の独占事業は独禁法に引っかかりそうである。しかし独禁
法は「私的独占に関する法律」であり、自治体を取り締まる条項がないので公
取委は乗り出せないことになっている。そのほか各方面にあたって調べたが、
現行この問題を質す権能が行政機構のどこにも存しないことが分かった。つま
るところ、それぞれの自治体の「政治」に期待するほかないのである。もしど
んな方法をもってしても入札が不可避というのならば、公益優先で業界が犠牲
となるのも仕方ないかもしれない。だがこの場合、シール方式や申告納付方式
という回避策が存在する。自治体は先例もあり手っ取り早いからと有料袋制に
向かうが、有料袋制でなくてはならない理由は、犠牲に値する重さを有するだ
ろうか。
 

行政の役割範囲を逸脱

 
 袋という日用品をあまねく住民に供給する事業は、行政に与えられた役割範
囲を逸脱している。この特異な事象を支えているのは「自治体が扱うそれは一
義的には袋ではなく証紙である。袋は証紙に付随したものである」という理屈
である。10年前、東京都は「ポリ袋が炭カルが混ざればプラスチックでなくな
る」という理屈をふりかざした。業界にとっては二度目の詭弁との遭遇であ
る。
 

消費者の選択自由が制限される

 
 自治体が袋をまとめ買いした場合、膨大な品種や型番が集約される。消費者
は多様な中から自分の生活にマッチした道具を選ぶことで利便性を享受してき
た。この利便性は入札制で失われることになる。入札制はいわば自治体の「専
売制」である。専売制の下で消費者はメーカーを選べない。気に入らなければ
他から買う、という自己防衛手段が取れなくなる。
 

入札は大都市にとって得策か

 
 大都市の入札は、それが「是か非か」という点以外に、「損か得か」「可能
かどうか」という点も考慮すべきである。大都市では行政が袋の調達を管理す
るのは困難である。政令市においてさえ「入札はスケールメリットが期待でき
る」や「1社に纏めたほうが効率的だ」という声が聞こえるが、実情を知って
いる者には同意できない見方である。たしかに人口2、3万の小都市で業者が
パイを取り合ってもメリットがない。1社に委ねるしかないだろう。ところが
大都市では、パイはひとりで食べるにしては大きすぎる。これまで大都市の事
例は北九州市くらいしかなく、大きな混乱がないため問題視されてこなかっ
た。しかし、大都市の導入が増えていくと状況は違ったものになるだろう。利
権集中の弊害が顕在化し、制度の安定性が脅かされるだろう。すでにその兆し
が2003年10月に八王子市で見られた。
 

コストメリットがあるか

 
 自治体の行う袋入札は、量販店や飲料会社などが大口購入するのと訳が違
い、域内に住む人々全員の需要を一手に賄う話である。そうした独占購買にお
いて「規模の経済性」が働くのはせいぜい10〜20万都市くらいまでだろう。一
工場がフレキシブルに製造キャパを割り当てられる単位が大体それくらいであ
る。それ以上になると、20万人がたとえ40万人になったとしても有利な条件が
引き出せると限らないし、むしろ一括で手配することに困難が生じてくると考
えられる。
 自治体が入札で買い上げる袋の価格は、現状は市販品より大幅に安いが、今
までのような価格差がいつまで続くか分からない。入札はいわばスポットの引
き合いである。全体からみて比率が小さいうちは申し込みが殺到し買い手が有
利だが、その比率が変われば立場が逆転する。入札という硬直的な選定方法で
は従来もたまに見られた不調がますます増えるだろう。
 また袋の買い付け価格は安いとしても、最終消費者の手に渡るまでのトータ
ル費用はどうか。袋は自治体倉庫から独自の経路でもって各店に配荷される。
そこでの物流効率は既存ルートより劣る。表面上の自治体の支出額だけでな
く、小売業者の持ち出し分の業務コストも含めた社会全体コストとして計算す
れば、入札が有利とならないはずである。
 

安定調達できるか

 
 昨年、八王寺市では調達につまづき有料袋の欠品が長く続いた。背景には世
界的な原料市況がある。2003年の末頃からポリエチレン市場は逼迫しており、
相場は従来の倍に高騰している。一部の工場では原料入手が困難となり、自治
体からの引き合いに応じきれないケースも起きている。世界情勢から考えて、
このタイトな原料事情は数年続くという見方が支配的だ。そんなところへもっ
てきて大都市が次々と入札に動けば、いつかの時点で市場の調節機能がパンク
し、供給途絶という事態が頻発すると予想される。
 

1社に絞るのは危険

 
 2004年に調達のドタバタ劇を経験した人口60万の八王子市の担当者は「1社
に絞るのは危険という教訓を得た」と語る。仮に今ほど原料がタイトでない時
期だったとしても、人口30〜40万以上の都市で業者を1社に絞るのは業界人に
言わせれば無茶である。事故や災害で工場が操業停止となれば取り返しがつか
ない。民間では30万都市に匹敵する量を調達する場合、調達ソースを複数確保
し、リスクを分散するのが常識である。
 民間企業は調達先と相対交渉し発注を自在に配分することが可能だ。しかし
自治体では民間ほどフレキシブルに調達を管理することは難しい。結局、民間
より何倍も厚い在庫を持つことでリスクに対処するしか手がないだろう。大都
市には調達技術の洗練という課題がついて回る。
 

製造の規模からの検討

 
 100万都市の北九州市では、袋の調達量は年1000トン。入札が3ヵ月おきに実
施される。毎回がオールオアナッシングの勝負であり、業者に連続受注の保証
はない。業者の目には300トン規模のスポット物件が定期的に巡ってくるように
映る。
 他方、民民のスポットでは一物件につき30トンが上限である。長期にギャラ
ンティーされた定番でも50トンまでだ。それ以上では業者・工場を分けてリス
ク分散を計る。
 プラント運営に理想的な規模は月400〜500トンといわれている。国内工場の
ごみ袋製造能力は200〜300トンが主流。最大で700トン程度。国内に残るごみ袋
の生産能力は全体で4000トン程度と言われる。各工場が保有するインライン印
刷設備はそのうち半分に満たないから、本体印刷に対応できる能力は2000トン
程度である。その能力も近年、設備の老朽化と海外移転が進んでおり減少傾向
である。新たな需要に充てられる余力はさほどない。したがって、これから有
料化する大都市は海外から調達してこざるをえないはずである。
 海外には1000トン、1500トンクラスの工場がいくつか点在する。中国の工場
などは印刷設備の普及率が高くて7割程度だ。ただ信頼できる工場は、スポッ
トへの過度の依存を避けるので、単独で100トン規模の引き合いに応じることは
ないだろう。また海外の製造業者は逼迫期になるとスポットから一斉に手を引
く。供給カットや値上げも躊躇しない。自治体の調達責任者は頭にいれておく
必要がある。
 大都市が調達先を一社に絞った場合、1工場での製造は困難であるため仲介
業者による調整が必要となる。民民では買い手が価格だけでなく品質・安定供
給・提案力などいろいろな要素を勘案して業者を決めるが、入札の場合は価格
だけである。そこで主導権を握れるのは必然的に、ひたすら安く買い叩いて数
をかき集められる業者となる。現状の落札価格の水準では品質・サービスにコ
ストをかけられるゆとりがない。入札が大都市に広がれば、ビジネスは低価
格、低品質、低サービスに収斂していくことだろう。
 
 

7.シール方式では駄目なのか

 
 シールであれば、金券(証紙)の管理で苦労せずにすむ。袋はもともとラフ
に扱われる消耗材であり、製造不良、破損、紛失、数量違い等が付き物であ
る。精度ある数量管理になじみにくく、価値の貯蔵に向かない。一方でシール
は金券として扱うのにきわめて素性が良い。かさ張らないから保管、配送が簡
便である。店は有料袋の万引きに頭を痛めるが、シールなら対面販売なのでそ
の心配もない。市の事務負担、販売手数料も低く抑えられる。また有料袋は慣
れが生じてくると負担感が薄れるが、シールは買うたびごとに処理費用を住民
に意識させる。インセンティブを働かせるという所期の目的に合致する。
 シール方式は「収集作業の効率」「シールを貼る手間」などの短所が指摘さ
れる。しかしシールは現に全国で少なからず実績を重ねており、そこで困った
という話は聞かれない。事実上問題ないと見るべきだろう。作業効率の点は、
佐世保市が行ったように認定袋に貼付枠を表示し、シールの貼られる位置を固
定化することで解消できる。シールにすると券種が増えて煩雑化するとの指摘
もあるが、工夫によって1、2券種に抑えることが可能だ。佐世保市では35円
券(7.5L相当)と70円券(15L相当)を用意し、7.5L、15L、30L、45Lの
4サイズの袋に対応させている。また分別種ごとに料金を変えたい場合でも、
たとえば下表のように袋のサイズを調整することによって対応可能だ。
 
<分別種ごと料金を違える場合の設定例>
・	10円券とし、各用途に共通とする
・	小サイズほど割安とし、小袋を奨励できる。
 
            小サイズ     中サイズ    大サイズ
--------------------------------------------------------
可燃         15Lに1枚    25Lに2枚    35Lに4枚
不燃          8Lに1枚    16Lに2枚    24Lに3枚
資源         15Lに1枚    25Lに2枚    30Lに3枚
 
 

8.小売店による申告納付方式の模索

 
 シール方式と並び、自由競争を維持できる方式が「小売店申告納付方式」で
ある。袋の流通は従来どおりとし、店が仕入量に応じて手数料を市に納付す
る。住民が有料袋に払う金額を「袋代」と「収集手数料」に分け、「袋代」は
そのまま業者の売上げとし、「収集手数料」は自治体へ納付するという形だ。
 この方法の場合、手数料納付が申告ベースで行われるため、そこに不正が起
こらないよう対策を万全にできるかがポイントとなる。それについてわれわれ
は、メーカー・問屋・小売の全業者が入出荷量を別個に申告し、市が突合わせ
して不正がないことを確かめる方法を提案している。これで実務上問題ないは
ずと見る。
 

福岡市との協議

 
 われわれは2004年に福岡市環境局と協議を重ね、入札以外のやり方で手数料
を徴収する方策を検討した。われわれはシール方式を粘り強く推したが、市は
「住民に手間をかけさせられない」ことを理由に頑なに拒絶した。頭で考える
ほどシールが手間なのか疑問であるが、市の姿勢は理屈を超越していた。
 合意に達する可能性は袋でやる場合に限られたので、袋によるしくみを検討
した。業者が袋の扱い量に応じ収集手数料を市に申告納付する案が残った。は
じめメーカーが川上で納付する方式を検討したが、手数料を前納する負担に
メーカーが耐えられないことがネックとなり頓挫した。製品価値の十倍に相当
する資金を売掛回収前に捻出するのは私企業には難事である。問屋が納付する
方式も同様の理由で無理と判断した。唯一小売店が納付する案が残り、それで
あれば可能と思われた。
 小売店が申告納付する場合、「裏流通」の防止が懸案となった。われわれ
は、メーカー・問屋・小売の各段階が入出荷量を別個に申告し、市が突合わせ
してチェックする方法を提案した。しかし市では「メーカー・問屋・小売の三
者が結託すれば不正ができてしまう」という点に着目し、この案を見送った。
たしかに理屈の上でそうした不正は想定できるが、現実として公金詐取の目的
で三者に結託が成り立つことなど考えられない。われわれはそう訴えたが、市
は聞き入れなかった。最後決めるのは市であるので、いかんともしがたかっ
た。
 結局、市は「完全な方法は一つもない」と認識した上で入札方式を選び、断
行する予定だ。独自のアレンジとして、入札を袋の種類ごと7つに分け、落札
機会を増やす方針だ。WTO政府調達協定の適用を免れるため、入札事務は外
郭団体に委託する。福岡市なりに認定業者の立場を配慮した結果だが、営々と
続いた自由取引市場が終幕する現実は変わらない。
 

9.むすび

 
 指定袋の論点を概観してきた。この業界に身を置いて自治体の方々と話し合
う中、ごみ袋については立場が違えば見方が異なることを痛感する。廃棄物行
政を主務とする方々には、どうか公平で広い視野に立ち、袋の情報・論点を多
角的に地域に提供し、議論の活性化を図っていただけたらと思う。
 考え方には幅があり、調整を計るのは容易でない。いわゆる「意識の高い」
といわれる層の先駆的な意識と、サイレントマジョリティの平均的な意識との
間には隔たりがある。どちらに照準を当てるかによって、袋の政策はまったく
違ったものとなる。
 「袋はどうあるべきか?」は正解のない問いのように思われる。ただこれだ
けは言える。袋について世上流布している言説・見解は、いろいろな意味にお
いてフィクションに満ちている。袋を検討する際はそのことを念頭に置き、判
断根拠の一個一個を点検しながら進んでいってもらいたい。本稿が多少でもそ
のお役にたてれば幸いである。
 
 
[小塩勝男]
指定ごみ袋を考える会事務局長。日本サニパック株式会社販売支援室長。
<連絡先・勤務先>
東京都渋谷区幡ヶ谷1-25-5 日本サニパック株式会社
tel.03−5465−2124  koshio@gomibukuronews.com
会のHP「ごみ袋ニュース」 http://www.gomibukuronews.com